NHKの「みんなでニホンGO!」という番組、なかなか面白くてよく見ているのですが、今日のテーマは「日本語が漢字をやめて、ローマ字表記になったかもしれない」というものでした。
第二次大戦が終わったあと、GHQが「漢字の使用が日本の民主化の障害になっている。日本は漢字を廃止してローマ字表記に改めるべきである」と主張したそうです。
このときにGHQが主張したのと同じように、かつて漢字を廃止してローマ字表記を採用した国が、実際にアジアにあるのです。それはどこでしょうか?
な~んて、これは「ベトナム青葉奨学会沖縄委員会」事務局のブログですので、当然、答えは「ベトナム」ってことになるわけですが…。
かつて、ベトナムは漢字を使っていました。そして、日本人が漢字を簡略化してひらがなやカタカナを作り出したように、ベトナム人は漢字をもとにして「チューノム」という民族文字を作り出しました。
漢字やチューノムを使った文学もかなり発達したのですが、20世紀に入るとローマ字表記が主流となり、漢字やチューノムは廃れていきました。
いま、ベトナム人のほとんどは、漢字もチューノムも読むことができません。
漢字やチューノムをやめて、ローマ字表記を広めようとしたのは、まずベトナムを支配していたフランス人たちでした。彼らにとっては、自分たちが覚えやすいローマ字表記のほうが都合がよかったわけです。
でも、ローマ字表記を推進したのは、フランス人たちだけではありませんでした。
植民地支配に抵抗し、独立を求めて闘っていたベトナム人たちも、熱心にローマ字表記を広めていました。
当時の一般民衆にとっては、漢字やチューノムを覚えるのは難しすぎる、ローマ字表記なら、それよりもはるかに容易に民衆が文字を獲得できる、というわけです。
こうして、ベトナム語のローマ字表記が急速に普及し、反対に、漢字やチューノムは使われなくなっていきました。
ベトナム語の例を考えると、「漢字は民主化の障害」とかいう突飛な発想も、なるほどそれなりの根拠はあるのかな、とも思えてきます。
当時、GHQだけでなく、日本人の中でも「漢字廃止論」は一定の支持を集めていたようです。
でもまあにほんごのばあいはかんじをやめたりろーまじひょうきにあらためたりするととんでもなくよみにくいものになってしまうので、あのときかんじをはいししなくてほんとうによかったなとおもうのですが…。
ベトナム語の場合、ローマ字表記にしても特別な不便は生じなかったようです。が、日本語はベトナム語と比べると発音がはるかに単純(貧弱といえるかも…)なので、漢字の助けを借りないと、もはや言語として成り立たないように思います。
たとえば、「こうえん」とか「ko-en」と書いても、それが「公園」なのか「公演」なのか「講演」なのか「後援」なのか、判断できません。実際の文章では文脈で区別できるでしょうが、かなりややこしくなるのは間違いありません。
ベトナムではローマ字表記がすっかり定着し、識字率も比較的高いわけですが、かつてベトナム人が築いてきた文化と切り離されてしまった、という問題が生じました。
たとえば、ベトナムのお寺や古い建物には、よく漢字が書かれています。外国人である私たちは、それをある程度読める(だいたいの意味は推測できる)のですが、地元に住んでいるベトナム人にはちんぷんかんぷんという、考えてみると不思議なことが起こるわけです。
いま、ベトナムの教育界では、「高校で漢字やチューノムを教えてはどうか」という議論があるそうです。
しかし、全国の高校で漢字を教えるためには、漢字を教えることに出来る人が、相当に多くいなければなりません。いまはそれだけの人がいないので、高校のカリキュラムに漢字を導入するのは当面は無理だろう、ということになっているようです。
近い将来、ベトナムでも、漢字やチューノムがもっと見直されるのでは、と私は思っていますが…。
日本語とベトナム語を比較して考えてみると、興味深い問題が次々に出てきます。いずれまた、書いてみたいと思います。