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2011年01月28日

沖縄のヒヌカンとベトナムのタオクアン(1)

来週の木曜日は、旧暦の元日。ベトナムでは、最大の年中行事「テト」。
そろそろテトを迎える準備が本格的に始まっている頃だと思います。
青葉奨学会のホーチミン事務局も、明日で仕事納め。来週はお休みします、との連絡がありました。

一昨日は、ベトナムでは、かまどの神様「タオクアン」を天に送る日でした。
多くの奨学生の家でも、ささやかなお供えをしてタオクアンを送り出したことでしょう。

昨年夏に発行した会報25号に、「沖縄のヒヌカンとベトナムのタオクアン」という特集を載せました。
タオクアンについて調べた会員の鍋田さんに話してもらった内容です。
会報に載せたものを、ブログでも2回に分けてご紹介します。


「ヒヌカン(火の神)」といえば、沖縄ではおなじみの「かまどの神様」ですが、ベトナムにも「タオクアン(Tao Quan)」というかまどの神様がいて、多くの家庭で信仰されています。
この「タオクアン」、実は沖縄の「ヒヌカン」と、とても多くの共通点を持った神様なのだそうです。

会員の鍋田尚子さんが、ベトナムの「タオクアン」について2年間にわたって調べて、このほど大学の卒業論文にまとめました。
これまで誰も取り組んだことのないテーマで、とてもユニークな論文になっています。
「タオクアン」の話は、青葉奨学会沖縄委員会の活動とはあまり関係ないのですが、沖縄とベトナムとの共通点や関わりについて考える上で、たいへん興味深いテーマだと思います。
そこで今回は、ベトナムのタオクアンについて、鍋田さんにお聞きしてみました。
(文責は青葉奨学会沖縄委員会事務局にあります。)

★まず、「ヒヌカン」とはどのような神様なのか、私自身はあまりなじみがないので、簡単に教えて下さい。

☆はじめにお断りしておきたいのですが、私は愛知県の出身で、沖縄のヒヌカンについてよく知っているわけではありません。
それと、今回いろいろと資料を調べてみて、一口に「ヒヌカン」といっても、それぞれの地域や人によって、とても多様な祀り方や考え方があることを知りました。
ですから「沖縄のヒヌカンとはこういうものです」と、私が言うことはできません。

ですが、あまりなじみのない方もいらっしゃると思いますので、ごく一般的なことだけを説明すると、ヒヌカンとは、沖縄の家庭の台所に祀られていて、家庭を見守っている神様です。
昔は、かまどの周辺に石3個を安置していましたが、現在では、炊事場の一隅に香炉や花立て、米、水、酒、塩を安置し線香を立てて祈願します。

ヒヌカンは一家の主婦が管理していて、家族の健康や安全を祈ったり、出来事を報告したりします。ヒヌカンを拝むのは陰暦の1日と15日ですが、毎年12月24日には、ヒヌカンは天に昇って、1年間の家族の行いを天の神様に報告するといわれています。

★そのヒヌカンとよく似た神様が、ベトナムの「タオクアン」というわけですね。「タオクアン」について調べてみようと思ったきっかけは、何ですか。

☆私は2003年6月から2年余り、ベトナムのホーチミン市で日本語を教える仕事をしていました。
帰国したあと、もう一度勉強し直したいと思って、沖縄国際大学に入りました。
沖縄で生活を始めてみると、ベトナムとよく似た場所だなあと感じることが、たびたびありました。
それで、沖縄とベトナムで共通しているものについて調べてみたいと、漠然と思うようになりました。

大学1年生のとき、授業で「ヒヌカン」のことを知って興味を持ったのですが、そのあと琉球大学の那須先生の授業を聴講するようになって、ベトナムでも「ヒヌカン」とよく似た「タオクアン」というかまどの神様が信仰されていることを知りました。
ベトナムで仕事をしていたときには、「タオクアン」のことはまったく知りませんでした。
2年間もベトナムにいながら、現地の文化についてあまりにも知らなかったことを痛感しました。
それで、「タオクアン」を糸口にして、ベトナムの生活や文化、沖縄との関わりについてきちんと勉強してみようと考えました。

★「タオクアン」という言葉には、どのような意味があるのですか。

☆タオクアンは、漢字では「灶(タオ)君(クアン)」と書きます。
「灶」は日本では使われない漢字ですが、「竈」の簡体字で、「かまど」という意味です。
中国や台湾でも、かまどの神様のことを「灶君」と呼んでいます。

ただ、ベトナムでは「タオクアン」というのは公式な名称で、多くの人はふだん「オンタオ(Ong Tao)」と呼んでいるそうです。
「オン」は年配の男性への敬称なので、「タオ様(かまど様)」というような感じになります。

★ベトナムのタオクアンは、どの家庭でも祀られているのでしょうか。
また、ヒヌカンと同じように台所に祀られているのですか。

☆かなり多くの家庭で祀られています。中には、「現在ではかまどからガスコンロに変わったから、タオクアンを祀る必要はない」と言う方もいますが…。
1人暮らしの学生などは普通タオクアンを祀っていませんが、結婚して家庭を持つときには、現在でもたいてい新しくタオクアンを祀ります。

タオクアンを祀る場所としては、ホーチミン市など南部では、台所が多いです。
祭壇には、香炉と一緒に、「灶君」とか「定福灶君」などと書かれた字牌が置かれています。
次の写真は、日本語学校のときの教え子の実家で見せていただいたタオクアンの祭壇です。

沖縄のヒヌカンとベトナムのタオクアン(1)

字牌には漢字が書かれていますが、字の意味は家族の誰にもわからないそうです。
ちなみに、この家の場合は、祭壇は台所ではなく別の部屋に置かれていました。

北部では、タオクアンの独自の祭壇を祀るのではなくて、祖先の祭壇と一緒に祀られています。
次の写真は、タイビン省の民家で見せていただいた祭壇です。

沖縄のヒヌカンとベトナムのタオクアン(1)

3つの香炉がありますが、そのうち真ん中にあるのがタオクアンの香炉だそうです。
北部では字牌は見かけませんでした。
祖先の祭壇と一緒なので、祀る場所は台所ではありませんが、タオクアンが台所の神様であるということは、はっきり意識されています。

以上は現在の祭壇ですが、過去には、タオクアンは3つの石を祀っていたそうです。
タオクアンには「オンダウラウ(Ong Dau Rau)」という呼び方もありますが、「ダウラウ」とは、煮炊きのときに鍋を乗せるために使う3本の足のことだそうです。
沖縄のヒヌカンでも、かつては3つの石を祀っていて、「オミチモン」などとも呼ばれています。
この点は、タオクアンとヒヌカンの大きな共通点だと思います。

★ベトナムのタオクアンも、陰暦12月24日に天に昇って、天の神様に報告をするのでしょうか。

☆ベトナムの場合は、天に昇る日が沖縄よりも1日早くて、陰暦12月23日になります。
タオクアンはこの日に天に昇って、家族の1年間の行いのすべてを、玉皇上帝という神様に報告すると考えられています。
タオクアンを天に送り出す儀式は、ベトナムではとても大切なものと考えられていて、キリスト教徒など、ふだんタオクアンを祀っていない人たちでも、この日には家でお供えをして儀式を行うそうです。

ベトナム人にとっていちばん大切な年中行事は、なんといってもテト(旧正月)ですが、タオクアンの儀式
が終わると、本格的に新年を迎える準備に入ります。
ですから、1年の締めくくりという意味もあります。
この日に天に昇ったタオクアンは、陰暦の大晦日(12月30日)の深夜に家庭に戻ってくると考えられています。

玉皇上帝というのは、中国の道教で最高神と考えられている神様です。
かまどの神様が年末に天に昇るという考え方は、もともと中国の道教で生まれたものです。
中国で生まれた考え方が、一方ではベトナムに伝わり、また一方では琉球に伝わりました。

ベトナムでも琉球でも、火やかまどに対する土着の信仰がもともとありましたが、その土着の信仰と、中国から伝わった考え方が結びついて、それぞれに発展していったわけです。
ヒヌカンにもタオクアンにも、道教だけでなく、仏教や儒教、祖先崇拝、精霊信仰など、いろいろな要素が入っていますが、ベトナムの場合は「灶君」や「玉皇上帝」という名前がそのまま使われているなど、中国の道教の影響がより強いと思います。


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